滋賀家庭医療学センターにおける

予防医療の推奨一覧

Information about Preventive Medicine

Presented by SCFM and Hideki Tsunoda

悪性腫瘍スクリーニング

大腸癌 (Colorectal Cancer)

当院では40〜75歳の患者に対して1〜2年毎の便潜血検査(免疫法)あるいは45〜75歳の患者に対して10年毎の全大腸内視鏡検査を推奨する。便潜血は40歳以上であれば自治体からの助成があり、患者負担500円で実施可能である。なお、76歳〜85歳の高齢者については検診の適応について議論のある領域であり、一律に規定しない。

  • USPSTFでは50〜75歳へのGrade Aの推奨、45-49歳に対してGrade Bの推奨となっており、検査方法については便潜血、全大腸内視鏡検査を含めて特に優劣は付けていない。(https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/uspstf/recommendation/colorectal-cancer-screening) 76〜85歳に関してはGrade Cの推奨としており、個別に判断することを推奨しているが、検診が妥当と考えうる状況について、これまでスクリーニングされたことがない場合、もし大腸癌が発見された場合に治療できる健康状態であること、寿命に大きな制限を与えるような疾患を持っていないことを挙げている。
  • 2024年度に更新された有効性評価に基づく大腸癌検診ガイドライン(日本)では、便潜血検査(免疫法)が推奨グレードAである一方、全大腸内視鏡検査は推奨グレードCとなっており、全大腸内視鏡検査に加えて便潜血を検査をより推奨している。これはUSPSTFが各検査法に優越をつけていないのと比べて異なる点である。大腸癌検診ガイドラインでは、この推奨グレードの違いの理由として、全大腸内視鏡検査には死亡率減少効果を示す根拠はあるものの無視できない不利益(前処置または検査に伴う偶発症、精神的負担)があることをあげており、全大腸内視鏡検査については、安全性を確保し不利益を十分説明した上で任意型検診として行うことは可能と結論づけられている。また検診開始年齢について、便潜血については40歳からの開始を推奨するものの、45歳または50歳から開始することも可能というコメントされている。便潜血検査(免疫法)については検診期間は1-2年、1回法でも2回法でもどちらでも構わないと記載されている。全大腸内視鏡検査については推奨年齢についての具体的な記載はない。(https://canscreen.ncc.go.jp/guideline/daicyougan.html)。
  • 当院では公費による検査補助と日本のガイドラインの推奨を鑑みて40歳からの便潜血を推奨している。一方で、もし全大腸内視鏡検査を行う場合はUSPSTFの推奨に従い、45歳から75歳を対象とし、異常がなかった場合は10年毎の検査を推奨している。
  • USPSTFでは大腸癌検診の推奨は「無症状」かつ「平均的なリスク」の成人(45歳-75歳)にのみ適用されると明記されており、大腸癌/大腸ポリープの既往がある人、大腸癌の家族歴がある人、遺伝性疾患の既往がある人、炎症性腸疾患の既往がある人などはハイリスク患者として除外されていることには留意が必要である。家族歴がある場合(リンチ症候群などの既知の遺伝性疾患を含まない)の対応については、2021年のアメリカ消化器学会のガイドラインで言及があり、第一度近親者が大腸癌と診断された場合は40歳から、あるいはその家族が大腸癌と診断された年齢の10年前からの検診開始が推奨されている。また、その発症年齢が60歳未満であった場合は便潜血法ではなく5年毎の全大腸内視鏡でのスクリーニングが推奨されている(https://journals.lww.com/ajg/Fulltext/2021/03000/ACG_Clinical_Guidelines__Colorectal_Cancer.14.aspx)。
  • 下部消化管内視鏡の検診間隔10年を支持するデータとして、平均的なリスクの患者であれば、一度スクリーニングが陰性であれば、向こう10年は悪性腫瘍が見つかるリスクは極めて低いというSystematic Reveiwが存在する(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6853024/)が、経験的には、(見逃しのリスクなどを考慮し、)内視鏡医からは、より短期でのフォローアップを指示されることが多い。
  • 胃癌 (Gastric Cancer)

    当院では50歳以上の患者に2〜3年毎の上部消化管内視鏡、あるいは1〜3年毎の胃X線検査を推奨する。年齢の上限は規定しない。上部消化管内視鏡は当院で実施可能であり、医療保険(3割負担)で約3750円(1250点)である。また、該当市町村在住の場合、50歳以上であれば自治体からの助成があり、3000円(70歳以上は無料)で受けることもできる(その場合は患者から町に申請してもらう必要あり)。胃X線検査は当院では実施不可能で、保健センターでの実施となるが、40歳以上であれば、自治体から助成があり、1000円で実施可能である。

  • 国立がん研究センターが作成した「有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン2014年版」では上部消化管内視鏡、胃X線検査が共にグレードBの推奨となっている(https://canscreen.ncc.go.jp/guideline/igan.html)が、上部消化管内視鏡が当院で実施可能であることから、当院では胃X線ではなく上部消化管内視鏡を推奨することが多い。
  • 胃X線で異常があった場合には上部消化管内視鏡による精査が必要である。日本消化器がん検診学会の2021年度の報告によると胃X線検査の要精検率は4.5%、胃癌発見率は0.07%となっている(https://www.jsgcs.or.jp/publication/publication/index)。
  • 諸外国(米国や英国)では胃癌の有病率が低い(10万人あたりのincidence rateは日本では27.5人、米国4.1人、英国3.9人である https://gco.iarc.fr/today/home)ため、胃癌は対策型検診(Population base screening)として推奨されていないことは認識しておく。対策型検診として、胃癌検診が導入されている国は日本の他には韓国、ベネズエラ、チリなどがある。
  • 乳癌 (Breast Cancer)

    当院では40〜74歳の女性に2年毎のマンモグラフィーを推奨する。検査は保健センターで定期的に行われる他、指定のクリニックでも受けることができる(当院では不可)、検査費用は助成があり、40〜49歳は患者負担2000円、50歳以上は患者負担1500円である。

  • 2024年4月30日にUSPSTFの推奨が更新され、40〜74歳の女性を対象に2年毎のマンモグラフィー単独法が推奨されている(Grade B)(https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/uspstf/recommendation/breast-cancer-screening)
  • 国立がん研究センターが作成した「有効性評価に基づく 乳がん検診ガイドライン 2013年度版」ではマンモグラフィ単独法(40〜74歳)、マンモグラフィと視触診の併用法(40〜64歳)がいずれもグレードBとなっている。検診間隔については特に言及されていない。(https://canscreen.ncc.go.jp/guideline/nyugan.html)
  • 当院では2年毎に助成の対象となることを鑑み、2年毎の実施を推奨している。
  • 米国放射線医学会のガイドライン(https://www.jacr.org/action/showPdf?pii=S1546-1440%2823%2900334-4)や米国乳腺外科学会のガイドライン(https://www.breastsurgeons.org/docs/statements/asbrs-screening-mammography.pdf) では2年毎ではなく、より積極的に毎年のマンモグラムを推奨している。
  • 子宮頸癌 (Cervical Cancer)

    当院では21〜65歳の女性に2年毎の細胞診を推奨する。検査は保健センターで定期的に行われる他、指定のクリニックでも受けることができる(当院では不可)。検査費用は助成があり、集団検診では患者負担1000円、個別検診では患者負担1700円である。

  • USPSTFの推奨では21〜29歳の女性に3年毎の細胞診単独法を、30〜65歳の女性には3年毎の細胞診単独法、5年毎の細胞診・HPV検査併用法、5年毎のHPV検査単独法を推奨している(いずれもGrade A)(https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/uspstf/recommendation/cervical-cancer-screening)。
  • 国立がん研究センターが作成した「有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン2019年度版」では、20〜69歳女性への2年毎の細胞診単独法、30〜60歳女性への5年毎のHPV検査単独法が推奨されている(いずれも推奨グレードA)、一方で30〜60歳女性への5年毎の細胞診・HPV検査併用法については偽陽性の増加を理由に弱い推奨となっている(推奨グレードC)(https://canscreen.ncc.go.jp/guideline/shikyukeigan.html)。
  • 当院ではUSPSTF推奨の検診年齢を維持しつつ、検査へのアクセスと日本における助成体制を考慮し、2年毎の細胞診単独法を推奨している。
  • 結果に異常があった時のフォローアップとしてASCCPのガイドライン(https://www.asccp.org/management-guidelines)、モバイルアプリ(https://www.asccp.org/mobile-app)は有用である。
  • 肺癌 (Lung Cancer)

    当院では50-80歳かつ20Pack-Yearの喫煙歴がある喫煙者または15年以内に禁煙した非喫煙者に対して、年に1回の低線量CTを推奨する。なお、禁煙後15年経過した場合にはスクリーニングを中止する。低線量CTは近隣の医療機関への紹介となり、全額自費負担の場合約10000〜15000円程度である。低線量CTへのアクセスが難しい場合には、感度が限られているという点に留意しつつ、結核検診や定期健康診断の補助を活用しつつ胸部X線を検討する。

  • USPSTFは50〜80歳かつ20Pack-Yearの喫煙歴がある喫煙者または15年以内に禁煙した非喫煙者に対して、低線量CTを推奨している(Grade B)。(https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/uspstf/recommendation/lung-cancer-screening) またUSPSTFでは、禁煙後15年以上経過している場合や、寿命や手術耐用性に影響を与える他の健康問題がある場合にはスクリーニングを中止することを提案している。
  • 国立がん研究センターの作成した「有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン2025年度版」では重喫煙者(喫煙指数600以上)に対する低線量CT(50-74歳)がグレードAの推奨、喫煙歴に関わらず胸部X線でのスクリーニング(40-79歳)がグレードAの推奨となっている。すなわち、USPSTFと比較し、①そもそも喫煙歴がなくても肺癌検診の対象となる、②低線量CTの対象者の条件が厳しい(日本:喫煙指数600 = 30 pack-yearである一方USPSTFでは20 pack-yearで対象となる)、③対象年齢が異なる(胸部X線は40歳からの推奨、低線量CTは75歳までの推奨)、④胸部X線も有効な検査として推奨されている点が異なる。
  • 米国では大規模なRCT(PLCO cancer screening trial)の結果、胸部X線によるスクリーニングが死亡率を減らさなかった(JAMA. 2011;306(17):1865-1873. doi:10.1001/jama.2011.1591)という結果に基づき、胸部Xpでの肺癌スクリーニングに対して否定的な立場をとっている。一方で国立がん研究センターは、胸部X線でのスクリーニングを推奨する理由について、国内の症例対照研究では喫煙の有無にかかわらず死亡率減少効果が示されていること、また、米国のPLCO cancer screening trialでは研究開始から3年間胸部X線検査による肺がん検診が実施され、それ以降10年間検診は実施されていなかったため、研究開始から13年目の評価では死亡率減少効果は認められていなかったが、研究開始から6年目の評価では死亡率減少効果があることが示唆された[Oken MM. PMID22031728]ことをあげている。
  • 日本では、感染症法により市町村が65歳以上の住民に対して結核定期健診を行うこととなっている(結核検診の有用性についてはここで議論しない)ため、この年齢層に対しては毎年の胸部X線が実施される場合がある。また、加えて、日本の勤労世代においては、労働安全衛生法に基づく職域での定期健康診断に加え、自治体や健保組合の被扶養者健診なども広く普及しており、実務上は就労状況や年齢を問わず、毎年広範に胸部X線検査が実施される環境にあることに留意が必要である。
  • 以上を鑑みて、当院では重度の喫煙歴がある高リスク患者については原則として低線量CTを推奨するが、自己負担額や検査アクセスの問題で低線量CTの実施が難しい場合には、肺癌検出の感度が限られているという点を理解した上で、胸部X線を行うことを推奨する。
  • 低線量CTの被曝量については、胸部単純撮影に比べて吸収線量で約3-10倍、実効線量で20-40倍に相当すると報告されている(日放技学誌/ 57巻, 8号, 939-46頁/ 発行年 2001年)、また、USPSTFは非低線量CTについて、被爆の面から健常者への検診として用いるべきではないと言及している。
  • 検査後のフォローアップについては日本CT検診学会の低線量CT による肺がん検診の肺結節の判定基準と経過観察の考え方第6版(https://jscts.org/pdf/guideline/gls6th202403.pdf) を参考にすることが多い。
  • 前立腺癌 (Prostate Cancer)

    当院では50歳〜69歳の男性に対して、PSA採血を状況に応じて検討する。スクリーニングの間隔については一律に規定しない。PSA採血は当院で実施可能である。竜王町では、50歳〜74歳の患者に対しては集団検診時にのみ自治体からの助成があり、1500円で実施可能である。70歳以上の男性に対しては原則検査を推奨しない。

  • USPSTFでは70歳以上はGRADE D、55〜69歳はGRADE Cとなっている(https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/uspstf/recommendation/prostate-cancer-screening)。USPSTFの推奨では、スクリーニングが一部の男性において前立腺癌による死亡リスクを低減するという、わずかな潜在的利益をもたらす一方で、追加検査や前立腺生検を必要とする偽陽性の結果、過剰診断と過剰治療、そして尿失禁や勃起不全といった治療に伴う合併症などのスクリーニングによる潜在的な害についても言及されており、患者との対話(Shared Decision Making)の上で検査の実施を判断すべきと述べられている。
  • 国立がん研究センターの作成した有効性評価に基づく前立腺がん検診ガイドライン(2008年度)では、前立腺癌検診は対策型検診として推奨されていない(グレードI)(https://canscreen.ncc.go.jp/guideline/zenritsusengan.html)。
  • 米国泌尿器科学会(AUA)の2023年のガイドラインでは、55〜69歳の男性に対してリスクと利益を検討した上での意思決定(Shared Decision Making)が必要としており、スクリーニングを行う場合でも間隔は2年以上が好ましいとしている。(https://www.auajournals.org/doi/10.1097/JU.0000000000003491)
  • 日本泌尿器科学会の前立腺がん検診ガイドライン2025年度版では、50歳以上の男性に対してPSA検査による前立腺癌検診の実施の提案するが、利益不利益バランスに関する情報提供を行ったうえで個人の意向に従って実施する事が望ましいとしている。
  • 当院では、50歳からは公費での補助がある現状も踏まえて、50〜69歳の男性に対して、前立腺癌検診の利益と不利益を説明したうえで個人の意向も鑑みながら、状況に応じてPSA採血を検討することにした。なお、70歳以上については検査の害が上回るかもしれないというUSPSTFのStatementを参考に原則検査を推奨しないこととした。
  • その他のスクリーニング・カウンセリング・予防的投与

    禁煙 (Smoking cessation)

    当院では全ての患者に対して喫煙の有無のスクリーニングを行い、喫煙者に対しては禁煙外来受診も視野に入れた禁煙カウンセリングを行う。禁煙外来は当院で実施可能であり、12週間で5回の受診を行う(間の3回は電話診療も可)。バレニクリン(内服薬)費用は3割負担で約16000円、ニコチンパッチ(貼付剤)費用は3割負担で約12000円(諸条件で前後の可能性あり)である。

  • 3分以内の短い声掛けであっても患者の禁煙率を上げたという弱いエビデンスがあり、こまめな情報提供を心がける(U.S. Department of Health and Human Services のClinical Practice Guideline Treating Tobacco Use and Dependence: 2008 Update)。
  • 厚生労働省健康日本21アクション支援システム(https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/tobacco)が喫煙に関する詳しい資料を提供している。
  • よく議論に上がる加熱式たばこの害について、この資料の中では主流煙には多くの種類の有害化学物質が含まれるもののニコチン以外の有害化学物質の量は少なかったとの報告があるが、販売開始からの年月が浅いため長期使用に伴う健康影響は明らかになっていない、と述べられている。
  • 2020年の診療報酬改定において、加熱式たばこ使用者も健康保険による禁煙治療の対象として正式に認められていることは認識しておく必要がある。
  • 骨粗鬆症 (Osteoporosis)

    当院では65歳以上の女性、危険因子を有する65歳未満の閉経後〜閉経期の女性、70歳以上の男性、危険因子を有する50〜70歳未満の男性に対して、DEXAによる骨密度測定を推奨する。DEXAは近隣の医療機関で実施可能であり、3割負担で約1400円程度である。

  • USPSTFでは、65歳以上の女性、および骨粗鬆症性骨折の危険因子を1つ以上もつ65歳未満の閉経後女性へのスクリーニングを推奨している(Grade B)一方、男性についてはデータ不十分(Grade I)となっている。危険因子とは股関節骨折の家族歴、喫煙、過度なアルコール摂取、低体重などを指し、一つでも当てはまる場合はFRAXなどでのリスク評価ツールでで評価することを推奨している(https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/uspstf/recommendation/osteoporosis-screening)。
  • 米国内分泌学会のガイドラインでは70歳以上の男性に対するDEXAも推奨している。(https://academic.oup.com/jcem/article/97/6/1802/2536476?login=false)
  • 日本の骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会による骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版において、70歳以上の男性、危険因子を有する50〜70歳未満の男性についても骨密度測定の有効性を指摘している。また危険因子としてはアルコール(3単位以上)、現在の喫煙、大腿骨近位部骨折の家族歴をあげている(https://www.josteo.com/data/publications/guideline/2025_01.pdf)。
  • 当院ではこれらの推奨を総合的に勘案し、男性患者についても状況に応じてDEXAを提案している。
  • 高血圧 (Hypertension)

    当院では18歳以上のすべての患者に血圧測定のスクリーニングを推奨する。40歳未満では3〜5年毎、40歳以上および高血圧のリスクが高い成人(血圧が正常範囲ではあるが高値付近の人、肥満の人など)は毎年のスクリーニング測定を推奨する。

  • USPSTFでは18歳以上の患者へのスクリーニングがGrade Aとなっている(https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/uspstf/recommendation/high-blood-pressure-in-adults-screening)が、小児患者における血圧のスクリーニングは十分なデータがない(https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/uspstf/recommendation/blood-pressure-in-children-and-adolescents-hypertension-screening)と結論づけている。
  • 実際のスクリーニングの方法として、USPSTFは上腕(上腕動脈)での診察室血圧測定(OBPM)を行い、診察室血圧測定で高値を示した場合、治療開始前に診断を確定する目的で診察室外での家庭血圧測定(HBPM)測定で確認することを推奨している。
  • 転倒予防 (Prevention for falling)

    当院では65歳以上の高齢者全てに対して、毎年転倒リスクに関する問診(Three key questions)を行い、必要に応じて歩行、筋力、バランスの評価を推奨する。

  • 毎年の転倒リスクのスクリーニングとして、CDCのSTEADI(Stopping Elderly Accidents, Deaths, and Injuries)のStay Independent questionnaireまたはThree key questions(①起立時や歩行時に不安定に感じるか②転倒が心配か③過去1年間に転倒したか)を行い、追加評価では歩行、筋力、バランスの異常を評価(Timed Up&Go、30-Second Chair Stand、4-Stage Balance Test)する。(Am Fam Physician. 2024;109(5):447-456.)(https://www.cdc.gov/steadi/hcp/clinical-resources/index.html)
  • USPSTFでは転倒リスクが高い65歳以上の高齢者ではExercise interventions(Grade B)、Multifactorial interventionsを提供するかどうかの判断を臨床医が個別に行うこと(Grade C)が推奨されている(https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/uspstf/recommendation/falls-prevention-community-dwelling-older-adults-interventions)。
  • 当地では具体的介入策として通所リハビリテーション(介護保険)や外来リハビリテーション(医療保険)の利用につなげることが可能であり、リハビリスタッフとも相談の上で導入を検討する
  • 腹部大動脈瘤 (Aortic aneurysm)

    当院では65〜75歳の一度でも喫煙歴のある男性に腹部超音波によるスクリーニングを勧める。検査は一度のみとし、もし異常がなかった場合は再スクリーニングは実施しない。検査は当院で実施可能であり、3割負担で約1600円(530点)である。

  • USPSTFでは、 65-75歳の一度でも喫煙歴のある男性に1回限り超音波でのスクリーニングを推奨している(Grade B)、一方で喫煙歴のない65〜75歳の男性については、個人の状況に応じて検討することを推奨している(Grade C)。女性については、喫煙歴もAAAの家族歴もない場合は不利益が利益を上回る可能性が高いためスクリーニングを推奨しない(Grade D)一方で、喫煙歴や家族歴のある65〜75歳の女性については推奨を判断するために十分なデータがない(Grade I)と結論づけている。(https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/uspstf/recommendation/abdominal-aortic-aneurysm-screening)
  • 糖尿病 (Diabetes)

    当院では35〜70歳の体重過多・肥満成人に対して3年に1回の血液検査(空腹時血糖もしくはHbA1c)を推奨する。血糖は国民健康保険の特定健診制度などの血液検査に含まれている。検査は当地で実施可能であり、国民健康保険の特定健診では40歳〜74歳にて無料、高齢者健診とされる75歳以上も無料で受けることができる。

  • USPSTFでは35〜70歳の体重過多・肥満成人に対して3年毎の血液検査を推奨している (Grade B)(https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/uspstf/recommendation/screening-for-abnormal-blood-glucose-and-type-2-diabetes)。
  • なお日本では公的補助の現状を鑑みて、脂質と合わせて毎年検査されることも多いが過剰検診の可能性についても認識が必要である。
  • 脂質代謝異常症 (Dyslipidemia)

    当院では、40〜79歳の成人に対して、5年に1回の血液検査を推奨する。ただし、家族にコレステロールが高い体質(家族性高コレステロール血症)が疑われる、または家族に若い頃から心臓・脳の血管の病気がある、あるいは血圧・糖尿病・喫煙などのリスクがある成人には、年齢に関わらず血液検査を行う。脂質検査は、国民健康保険の特定健診および高齢者健診(40歳以上を対象)の血液検査に含まれる。該当する方は、可能な限りこの補助を利用して検査を行うこととする。検査は当院で実施可能であり、費用は無料である。また、国民健康保険の若年検診(19〜39歳を対象)では、脂質の血液検査を500円で受けることができる。

  • USPSTFの推奨は、脂質異常症という疾患を単独で「管理する」という発想よりも、“Statin Use for the Primary Prevention of Cardiovascular Disease in Adults(成人における心血管疾患の一次予防としてのスタチン使用)”という枠組みで一次予防の介入(スタチン)を位置づけている点に特徴がある。ここで脂質異常(dyslipidemia)は心血管疾患(cardiovascular disease: CVD)のリスク因子の一つとして扱われ、対象は40〜75歳になる。具体的には、①CVD危険因子が1つ以上あり、②10年CVDリスクが10%以上ならスタチン開始を推奨(Grade B)し、7.5%以上〜10%未満なら“選択的に提案”(Grade C)という整理になる。なお、LDL-C >190 mg/dLや家族性高コレステロール血症は別枠で、この推奨の適用外とされている。(https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/uspstf/recommendation/statin-use-in-adults-preventive-medication)
  • CVDリスク評価の頻度という観点では、USPSTFでの推奨はないが、ACC/AHAが、20歳~39歳において脂質などのCVDリスク因子を4〜6年ごとに評価することが合理的という立場を示している。(https://www.acc.org/Latest-in-Cardiology/ten-points-to-remember/2019/03/07/16/00/2019-ACC-AHA-Guideline-on-Primary-Prevention-gl-prevention)
  • ただし、家族性高コレステロール血症を疑わない若年〜CVD低リスク集団に対してスクリーニングを行うことは、治療介入による絶対リスク減少が小さい。その一方で、不要な薬剤使用・医療費・ラベリング(病人化)といったコストが生じうるため、過剰検診の視点も持つ必要がある。
  • 日本では、動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022が、冠動脈疾患+アテローム血栓性脳梗塞をアウトカムとした久山町スコア(久山町研究)に基づく10年絶対リスクで層別化することが適していると考えられる。(https://www.j-athero.org/jp/wp-content/uploads/publications/pdf/GL2022_s/03_220808.pdf)
  • 脂質代謝異常症については、米国と日本ではかなりプラクティスが異なる領域であり、当院では実際に日本で使用している久山町スコアの対象年齢に合わせて79歳までを対象としてスクリーニングを行うこととする。
  • また余談ではあるが、スタチンの使用については、米国と日本で大きく診療が異なるということは認識しておく必要がある。例として、米国で血管リスクの高い患者にはアトルバスタチン 40-80mg/day、ロスバスタチン 20-40mg/dayなどの、日本では通常使用されない高用量のスタチンが使用されている。
  • うつ病 (Depression)

    当院では12歳以上の全ての患者に対して、これまで一度もスクリーニングが検討されていない場合、何らかのリスクファクターがあると考えられる場合にうつ病のスクリーニングを検討する。スクリーニングはPHQ2(Patient Health Questionnaire 2)、PHQ-9に加えて、高齢者にはGDS(Geriatric Depression Scale)、産後や妊娠中の女性に対してはエジンバラ産後うつ自己評価票などを用いて実施する。

  • USPSTFは、12~18歳の思春期の若者、妊娠中および産後の人を含む成人、ならびに高齢者を対象として、うつ病のスクリーニングを行うことを推奨している。2023年の推奨では、2014(自殺リスクスクリーニング)と2016(成人うつ病スクリーニング)を整理・統合した最終勧告として提示された。妊娠中・産後の人を含む成人および高齢者における自殺リスクスクリーニングについては、利益と害のバランスを判断するには現時点のエビデンスは不十分であると結論つけている。(https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/uspstf/recommendation/screening-depression-suicide-risk-adults, https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/uspstf/recommendation/screening-depression-suicide-risk-children-adolescents.)
  • 一般に用いられているうつ病スクリーニング尺度には、成人においてはさまざまな形式のPatient Health Questionnaire(PHQ)、Center for Epidemiologic Studies Depression Scale(CES-D)、高齢者ではGeriatric Depression Scale(GDS)、および産後および妊娠中の人を対象としたEdinburgh Postnatal Depression Scale(EPDS)が含まれる。
  • 不安症 (Anxiety)

    当院では8歳以上の小児・青年期の患者、全ての成人を対象に不安症のスクリーニングを推奨する。一次スクリーニングはGAD2を用いて行い、陽性であればGAD7を実施して診療判断に活用する。

  • USPSTFでは8歳以上の小児・青年期の患者(Grade B)と成人(Grade B)に対して不安症のスクリーニングを推奨している。2025年に出版されたSystematic Reviewでは、プライマリケア領域においては特にGAD2、GAD7を推奨している。日本周産期メンタルヘルス学会は周産期のスクリーニングツールとしてまずGAD2を用いることを推奨している。(https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/uspstf/recommendation/anxiety-adults-screening, https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41466386/, https://pmhguideline.com/consensus_guide/cq01.pdf)
  • USPSTFでは成人へのスクリーニングツールとして、Generalized Anxiety Disorder(GAD) scale、Edinburgh Postnatal Depression Scale(EPDS) anxiety subscale、Geriatric Anxiety Scale(GAS)、およびGeriatric Anxiety Inventory(GAI)を、小児・青年期の患者へのスクリーニングツールとして、Screen for Child Anxiety Related Disorders(SCARED) (global anxiety and any anxiety disorder)およびPatient Health Questionnaire–Adolescent(GAD and panic disorder)を提案している。
  • 性感染症(淋菌、クラミジア) (STD - Gonorrhea and Chlamydia)

    当院では性感染症のリスクが高い女性に対して、尿検査あるいは膣、尿道検体を用いた核酸増幅検査による性感染症(淋菌、クラミジア)のスクリーニングを推奨する。

  • USPSTFでは①24歳以下の性交渉歴がある女性、②25歳以上で性感染症のリスクが高い女性に対して性感染症(淋菌、クラミジア)が推奨されている(Grade B)が、当院では、日本の現状では特に①の患者全てに検査を推奨することは現実的ではないと考える。
  • 性感染症(梅毒) (STD - Syphilis)

    当院では性感染症リスクの高い女性患者に対して、血液検査(トレポネーマ検査+非トレポネーマ検査)による性感染症(梅毒)のスクリーニングを推奨する。

  • USPSTFでは全ての妊娠している女性、感染のリスクが高い人々に対して、梅毒のスクリーニングを推奨している(いずれもGrade A)。妊婦に関しては早期スクリーニングが求められる。USPSTFではリスク因子として、男性のセックスパートナーを持つ男性、HIV患者に加えて、投獄歴や商業的なセックスワークの経験、地理、人種/民族、若年男性であることなどをあげている。(https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/uspstf/recommendation/syphilis-infection-in-nonpregnant-adults-and-adolescents)(https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/uspstf/recommendation/syphilis-infection-in-pregnancy-screening)
  • アルコール (Alcohol)

    当院では全ての飲酒者に対して、危険な飲酒についてのスクリーニングを行う。スクリーニングはAUDIT-CやCAGEなどの問診によって行う。

  • USPSTFでは妊婦を含めて18歳以上の全ての成人に対して、危険な飲酒についてのスクリーニングを行い、陽性であった場合には簡単なカウンセリングを行うことを推奨している(Grade B)(https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/uspstf/recommendation/unhealthy-alcohol-use-in-adolescents-and-adults-screening-and-behavioral-counseling-interventions)
  • 肥満 (Obesity)

    当院では全ての肥満患者(BMI25以上)に対して、減量や運動など一般的な指導を行う。

  • USPSTFではBMI30以上の患者に対して、Multicomponent behavioral therapyが推奨(Grade B)されているが、日本に直接当てはめることは難しい。
  • 日本肥満学会では肥満をBMI25以上と定義している(https://www.jasso.or.jp/contents/wod/index.html)が、WHOの分類では肥満の定義はBMI30以上であり、BMI25-30についてはOverweightと分類される(https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/obesity-and-overweight)ことは認識しておく必要がある。
  • HCV感染 (HCV infection)

    当院では40歳〜79歳のこれまで検査を受けたことがない患者に対して、HCV感染のスクリーニングを推奨する。当地では40歳以上では助成制度があり、集団健診の際に患者負担700円でHBVとHCVが検査可能である。なお住民健診で設定された40歳未満でも、各種健診において(過去に一度も検査を受けていなければ)オプションで検査を受けることが可能な場合もある。

  • USPSTFでは、18〜79歳の成人患者に対してHCVスクリーニング(Grade B)が推奨されている(https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/uspstf/recommendation/hepatitis-c-screening)。一方、HBVに関しては成人についてはハイリスクな患者のみ(Grade B)に推奨されている(https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/uspstf/recommendation/hepatitis-b-virus-infection-screening#collapseExample)。
  • 妊婦への葉酸 (Folate for pregnant women)

    当院では妊娠を希望する全ての女性に葉酸の予防内服を推奨する。葉酸については処方薬か、市販薬のどちらでも構わない。

  • USPSTFでは全ての妊娠計画中または妊娠可能な女性に対して、0.4〜0.8 mgの葉酸の摂取を推奨している(Grade A)。(https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/uspstf/recommendation/folic-acid-for-the-prevention-of-neural-tube-defects-preventive-medication)
  • ワクチン

    肺炎球菌ワクチン(Pneumococcal vaccine)

    当院では65歳以上の患者あるいは、重い基礎疾患等により日常生活が極度に制限される60〜64歳の患者に対して肺炎球菌ワクチンの定期接種を推奨する。また、65歳未満の成人に関してもハイリスク者については肺炎球菌ワクチンの任意接種を検討する。高齢者肺炎球菌ワクチンについてはこの推奨を作成している2026年2月現在移行期を迎えており、具体的なワクチンの種類・接種頻度については最新のガイドラインを参照することが求められる。

  • 2026年4月より肺炎球菌ワクチンの定期接種はPPSV23(23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン)から、PCV20(20価結合型ワクチン)に移行する予定であり、対象者にはPCV20を1回接種することが推奨される見込みである。
  • 定期接種の対象者には自治体からの公費助成が見込まれており、対象者として65歳以上の成人や60〜64歳で重い基礎疾患等により日常生活が極度に制限される者が含まれる。重い基礎疾患等により日常生活が極度に制限される者の定義は概ね身体障害者障害程度等級1級に相当する者とされている。
  • 定期接種対象外であってもハイリスク者には肺炎球菌ワクチンの任意接種が推奨される。ハイリスク者に該当する基礎疾患として、「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第7版 2025年9月30日)」では『糖尿病、慢性肺疾患、アルコール依存症、慢性心疾患、慢性肝疾患、免疫不全状態では、固形がん、抗がん剤治療、ステロイド療法、慢性腎疾患・透析、自己免疫性疾患、機能的・解剖学的無脾症、免疫抑制剤治療、生物学的製剤治療、血液幹細胞移植後』があげられている。
  • 定期接種対象者の中でもより広範な予防効果を希望する患者や、定期接種の対象とはならないものの複数のリスクを持つ患者については、任意接種としてPCV21(21価結合型ワクチン:キャップバックス)も選択肢となる。PCV21は成人に特化した血清型を含み、国内の侵襲性肺炎球菌感染症に対するカバー率はPCV20やPPSV23よりも高い。
  • 米国CDCのACIP(予防接種諮問委員会)は2024年10月、成人向け肺炎球菌ワクチンの定期接種開始年齢を従来の65歳から50歳へと大幅に引き下げた。これにより、50歳以上の全成人に加え、19〜49歳で基礎疾患(慢性心・肺・肝疾患、糖尿病、アルコール依存、喫煙等)や免疫不全状態、人工内耳、髄液漏を有する者が広く接種推奨対象となっている。
  • インフルエンザワクチン(Flu vaccine)

    当院では生後6ヶ月以上の全ての住民に対し、毎年のインフルエンザワクチン接種を推奨する。65歳以上および 60~64歳で心臓・腎臓・呼吸器機能障害またはHIVによる免疫機能障害があり、日常生活が極度に制限される程度の者については定期接種の対象となっているが、定期接種の対象外の住民についても任意接種を推奨する。

  • 60〜64歳で重い基礎疾患等により日常生活が極度に制限される者とは、概ね身体障害者障害程度等級1級に相当する者とされていることが多く、定期接種の対象となる。
  • 定期接種の対象外であっても、日本プライマリ・ケア連合学会や日本ワクチン学会は、流行による罹患・死亡の低下のため生後6か月以上のすべての人への接種を推奨している。
  • 75歳以上の住民については、免疫応答低下を踏まえ高用量インフルエンザHAワクチンを選択可能とされる計画である。米国ACIPは、65歳以上では強化型ワクチン(高用量不活化(HD-IIV3)・組換え(RIV3)・アジュバント不活化(aIIV3)) のいずれかを推奨しているが、日本で2026年時点で用いることができる強化型ワクチンは 高用量インフルエンザHAワクチンのみとなる予定である。
  • 米国では政権交代によるACIPの刷新により「チメロサールを防腐剤として含まない単回用量製剤のみ」の推奨に変更されたが、米国小児科学会AAPなど学術団体は安全であるとして立場に違いがある。 日本では引き続きチメロサール含有製剤は使用可能である。
  • 不活化HAワクチンについて、日本では添付文書上6ヶ月以上13歳未満の小児は2回接種と規定されている。しかしWHOや米国ACIPでは9歳以上の小児では1回接種を、6ヶ月以上9歳未満の小児でも昨季までに2回以上接種している場合は1回接種を推奨している。(日本ワクチン学会も見解の中で限定的に1回接種に触れている)。
  • 注射の不活化インフルエンザHAワクチンが主に用いられるが、2歳以上19歳未満では経鼻弱毒生ワクチンも適応に注意して選択可能である。(https://www.cdc.gov/flu/professionals/acip/summary/summary-recommendations.htm)
  • また、ACIPでは、ワクチンの供給が限られている時に接種を優先すべき患者層として、6〜59ヶ月の小児患者、50歳以上の患者、慢性疾患(気管支喘息などの慢性肺疾患、心疾患、腎障害、肝障害、神経疾患・血液疾患、糖尿病を含む代謝障害)などをあげている。
  • 破傷風ワクチン(Tetanus vaccine)

    当院では破傷風ワクチン接種歴のない患者に対して、破傷風ワクチンの接種を推奨する。これまで破傷風ワクチンを接種していない場合は合計3回投与を推奨する。また、既にワクチンを3回接種済みの患者に対しても、10年毎に破傷風ワクチンのブースター接種を提案する。

  • 定期予防接種として三種混合ワクチンが導入されたのが1968年であるため、1967年以前に生まれた方は破傷風に対しての基礎免疫を持っていない可能性が高い。
  • 小児期には四種(三種)混合ワクチンの一部として破傷風ワクチンが投与されるが、成人に対して破傷風ワクチンを投与する場合には破傷風単独ワクチン(破傷風トキソイド)が投与されることが多い。
  • 米国では破傷風予防に関して、10年に1度TdもしくはTdap の接種が推奨されている。TdもしくはTdapは成人へのブースター接種のみを対象として開発された3種混合ワクチンであり、副反応を抑制するためジフテリア成分もしくは百日咳成分が減量されている。日本でも破傷風ワクチンはDTもしくはDTPとしてブースター接種が可能(日本感染症学会により破傷風トキソイド需給逼迫時の代替手段として例示もされている)である。
  • HPVワクチン(Human papilloma virus vaccine)

    当院では12歳(小学校6年生)〜15歳(高校1年生)の女性に対しての定期接種を推奨する。また、定期接種期間外(男性および高校2年生以上の女性)でHPVワクチン未接種(または未完了)の45歳以下の方に対し、本人の年齢・性別・既往・将来のリスクを踏まえて任意接種を提案する。

  • 接種回数の推奨について、日本国内では9価HPVワクチンは15歳の誕生日の前日までに1回目を開始すれば2回(3回でも可)、15歳以降に開始すれば3回の接種が推奨されている。米国も同様の推奨だったが、2026年1月、米国HHS(保健福祉省)は独自の判断に基づき、HPVワクチンの標準回数を「1回」とするスケジュールを公表し、それに伴いCDCの推奨も変更された。しかし本件の決定過程が通常とは異なるため、CDC内部の専門家委員会(ACIP)が発行する公式な政策文書(MMWR)は依然として複数回接種の推奨を維持しており、米国小児科学会(AAP)も変更前の複数回接種のスケジュールを推奨している。一方でWHOでは、複数回接種による費用やアクセスのハードルを下げる意図もこめて、20歳未満については1回接種でもよい(1〜2回の接種)というスタンスを取っている(https://www.who.int/news/item/20-12-2022-WHO-updates-recommendations-on-HPV-vaccination-schedule)。日本でも定期接種外の場合には、費用が高額となる(当院では2026年2月時点で、毎接種あたり約3万円の自己負担となる)ことから、特に20歳未満の患者について「1回でも一定の効果が期待できる可能性がある」という説明は、受診勧勧奨の際の重要な共有情報となり得る。
  • 男性への接種と集団免疫について、9価ワクチンは男性に対しても尖圭コンジローマや肛門がんの予防に適応がある。2025年以降、一部の自治体では男性への独自助成が開始されており、パートナーへの感染を防ぐ「集団免疫」の観点からも、男性が自費で接種する価値は高い。
  • ワクチンの接種年齢について、45歳までの成人女性への接種は日本でも適応があり、主に海外からエビデンスが得られている。特に新しいパートナーができる可能性や、これまでの検診状況を踏まえ、対象者と相談の上でメリットを評価することが望ましい。
  • HBVワクチン(Hepatitis B vaccine)

    当院ではHBVワクチンを規定通り3回接種していない全ての者に対して、接種を検討する。特に医療介護関係者・警察職員・保育職員など血液・体液曝露の可能性がある職種、HBVキャリアと同居する者、コンタクトスポーツ実施者、性的に活動的(sexually active)な時期にあり、感染リスクへの曝露が想定される方には積極的に推奨する。

  • 日本プライマリケア連合学会の感染症委員会ワクチンチームのホームページでは特に血液や体液を扱う職場で働く成人、コンタクトスポーツをする人に推奨している。(https://www.vaccine4all.jp/)
  • 米国では、ACIPにより19〜59歳の成人に対してHBVワクチンのユニバーサル接種が推奨されており、60歳以上についてもリスク因子がある場合には接種が推奨されている。なお、2025年末のACIP投票およびその後のHHS/CDCによる方針変更により、出生時HBVワクチンの一律推奨が撤回され、ハイリスク児を中心とした個別判断へと後退した。つまり2026年1月現在、乳児と成人とで推奨が異なる状況に陥っている。この変更は、政権交代に伴う政治的介入の影響が大きいと受け止められており、米国小児科学会(AAP)や米国内科学会(ACP)などの専門団体は「科学的根拠に基づかない後退」であるとして強く批判している。
  • 帯状疱疹ワクチン (Herpes Zoster vaccine)

    当院では、65歳以上の高齢患者、60〜64歳でHIVによる免疫機能障害があり日常生活がほとんど不可能な者への定期接種を推奨する。また、50歳以上の方、および免疫低下リスクのある18歳以上の方にも本ワクチンの任意接種を提案する。

  • 65歳を対象年齢に定期接種となり自己負担額が軽減される(負担額は自治体により異なる)。また、60〜64歳でHIVによる免疫機能障害があり日常生活がほとんど不可能な者も対象となる。加えて、2025〜2029年度は経過措置として、年度内に70/75/80/85/90/95/100歳となる者もその対象となっている。
  • 使用できるワクチンについては、生ワクチン(皮下1回)も利用可能であるが、組換えワクチン(不活化)(筋注2回)は接種費用が高いものの予防効果と持続性の点で非常に優れているため、原則は組換えワクチン(不活化)を勧める。
  • 疾病や治療(化学療法等)により免疫抑制状態にある18歳以上の成人については生ワクチンは選択できず、組換えワクチン(不活化)ワクチンの選択となる。この場合、医師の判断により接種間隔を1〜2ヶ月に短縮して早期に免疫を確立することも可能である。
  • 帯状疱疹に罹患後の待機期間については特に定められておらず、推奨機関によって様々である。眼部帯状疱疹における影響の存在から1年程度の間隔を開けるとする推奨もある。少なくとも急性期の症状の消失を確認して接種時期は相談して決定する。
  • RSVワクチン (RSV Vaccine)

    当院では妊娠28週〜36週の妊婦に対してRSVワクチンの接種を推奨する。また75歳以上の高齢者、または基礎疾患・免疫不全・施設入所等により重症化リスクが高い50歳以上の成人に対してRSVワクチンの接種を検討する。

  • 国内では2026年現在、妊婦以外の成人では60歳以上の全員、および重症化リスクを有する50〜59歳(アレックスビーのみ)が薬事上の適応となっている。日本感染症学会・日本呼吸器学会・日本ワクチン学会合同の見解や、JPCAでも推奨している。しかし、現時点では妊婦以外は全額自己負担の任意接種であるため、経済状況を含めて相談して決定する(一部の自治体では補助が実施されている)。
  • 米国CDCは治験上の早産リスクを慎重に考慮し、より後期の32週〜36週への限定を推奨している(日本の添付文書上は24〜36週)。妊娠週数が進みすぎている場合は乳児側(抗体製剤等)での予防が示されている。
  • 現時点のACIP指針では、高齢者・妊婦ともに追加接種を行わない(生涯1回接種)が現時点では基本とされている。
  • 風疹ワクチン (Rubella vaccine)

    当院では、過去に風疹ワクチンの2回接種歴がなく過去罹患歴が明らかでない1962〜1979年生まれの患者について、風疹ワクチン(MRワクチン)の計2回となるよう接種を推奨する。特に妊娠を希望する女性(風疹ワクチンは生ワクチンであるため妊婦には禁忌であることに注意)、そのパートナー・同居家族には、接種を積極的に検討する。

  • 昭和37年度から53年度生まれの男性に対する風疹第5期定期接種の期限は(抗体検査の実施が2025年3月末までに行われた場合には)2027年3月末まで延長されており、自治体により費用補助が設けられている。
  • 百日咳ワクチン (Pertussis vaccine)

    当院では、乳児への重症感染予防(コクーン戦略)の観点から、妊娠27週から36週の妊婦への百日咳含有ワクチンの任意接種を提案する。

  • 米国では、新生児の重症百日咳を防ぐため、母体の抗体を胎盤経由で移行させる母子免疫を目的として、27週から36週の妊婦に対して成人用三種混合(Tdap)を投与することが標準的なプラクティスとなっている。
  • 日本ではTdapが未承認のため、日本産科婦人科学会等は「実現可能な代替案として小児用DTaP(トリビック等)の活用が考慮される」と述べている(https://www.jsog.or.jp/news/pdf/infection07.pdf)。国内研究で妊婦への安全性と児への抗体移行は確認されているものの、乳児の重症化予防効果の直接的な証明には至っていないことには留意が必要である。
  • 以上を踏まえて、当院では妊婦の患者に対して、産婦人科とも協働しながら、状況に応じてDTaP(トリビック)を提案する。